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東京高等裁判所 昭和39年(行コ)37号 判決

控訴人(被告) 東京都品川税務事務所長

被控訴人(原告) 東京産業信用金庫

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張並びに証拠の提出、援用、認否は次のとおり付加するほか、原判決の事実摘示と同一であるので、これを引用する(ただし原判決添付の物件目録中「事務所一棟建坪四六坪九合九勺」とあるのを「事務所一棟建坪四九坪九合九勺」と、「六階三八坪七合五勺」とあるのを「六階三八坪七合四勺」と、「同二階六坪五合」とあるのを「同二階六坪五勺」と、それぞれ誤記と認めて訂正する)。

(被控訴人の主張)

控訴人主張の後記一ないし四の各事実をいずれも争う。同二の主張について、むしろ立法形式の面からみるなら、昭和三六年四月三〇日法律第七四号による改正前の地方税法第七三条の二に不動産取得税の納税義務者につききわめて詳細かつ具体的な規定をおきながら、譲渡担保に関してはなんら触れるところがなかつたのに、改正地方税法にはじめて譲渡担保に関する間接的な規定をおき、これを一応課税対象にとりあげた経過からして、かえつて改正前の地方税法は譲渡担保の設定を譲渡担保権者の取得とみない趣旨であつたと解すべきである。なお、その他の主張も租税制度の基調をなす租税法律主義、実質課税の原則並びに譲渡担保に関する立法学説等の動向等からみてそれぞれ理由がない。

(控訴人の主張)

一  立法の経過から見て地方税法第七三条の二第一項にいう「不動産の取得」には譲渡担保による不動産の取得が含まれている。すなわち、不動産取得税は古くから地方税として存在したところ、昭和二五年にいつたん廃止され、昭和二九年に再び地方税として復活したものである。そして右復活に関し衆参両議院の地方行政委員会において地方税法改正の審議が行われ、不動産取得税の非課税規定についても論議されたが、譲渡担保による不動産の取得を非課税とすべきかどうかについては言及されていない。これは立法者が譲渡担保による不動産の取得が当然課税の対象になるものと解していたからである。また昭和三六年四月三〇日法律第七号により地方税法の一部改正が行われ、譲渡担保による不動産の取得に対して課する不動産取得税の納付義務が一定の条件のもとに免除されたが、この時の昭和三六年三月三一日の衆議院地方行政委員会における政府委員の同法第七三条の七第七号及び同条の二七の二の規定に関する説明も「譲渡担保の設定及び解除に伴う不動産の取得について法律的には所有権の移転という形をとりますが、経済的には債権担保の目的のためでありますので、その譲渡担保の期間が一年以内である場合は非課税とすることにいたしております」といつており、また第三八回国会の衆議院地方行政委員長から衆議院議長あてに提出された昭和三六年四月二一日付地方税法の一部改正に関する法律案に関する報告書において、譲渡担保による不動産の取得については一定の条件のもとに非課税とすることを同委員会が可決した旨を述べており、いずれも譲渡担保による不動産の取得に対しては従前課税されていたことを当然の前提としている。

二  立法の形式からみても譲渡担保による不動産の取得に対しては課税することができる。すなわち、前記法律第七四号として公布された改正地方税法はその附則第一条により公布の日の翌日から施行すると宣言しながら、譲渡担保による不動産の取得についてはとくに附則第二五条を設けて、新法第七三条の二七の二の規定はこの法律の施行の日以後においてなされる同規定の譲渡担保権者による同規定の譲渡担保財産の取得について適用する旨を明らかにしている。かような立法の形式は改正地方税法施行日前すなわち昭和三六年四月三〇日以前においてなされた譲渡担保権者による譲渡担保財産の取得については納税義務が免除されない旨を明らかにしたものと解される。また右改正地方税法が譲渡担保財産の移動をすべて非課税とせず、同法第七三条の七に第七号を追加して譲渡担保財産が譲渡担保権者から譲渡担保設定者へ移転したときは形式的な所有権の移転として非課税としながら、同時に追加した同法第七三条の二七の二において譲渡担保権者による譲渡担保財産の取得に対しては解除条件的に納税義務を免除しているのは、後者の場合は将来譲渡担保財産が譲渡担保設定者へ移転されるかどうかが不明であり、必ずしも形式的な所有権移転とはいいがたいからであつて、その点において改正地方税法も譲渡担保権者に納税義務のある場合のあることを前提としているのである。

三  譲渡担保による不動産の取得については租税配分の原則からみても課税されるべきである。すなわち、租税は納税者が亨受する利益の程度に応じて各個人間に配分されるのが公平であるから、たんなる抵当権者よりも債権者にとつてその債権確保の手段としてもつとも有利な譲渡担保の方法によつた譲渡担保権者に対して重い税負担が課せられるのが当然であつて、譲渡担保を抵当権と同視して非課税とするならば、かえつて租税に関する実質的平等をやぶることになる。

四  なお不動産取得税は不動産に関する取引税であるから流通税の一種であり、従つて不動産取引税における取得の意義も取得という行為を形式的にとらえてこれに課税しようという流通税の目的に即して解釈すべきである。

(あらたな証拠)〈省略〉

理由

一  被控訴人主張の事実関係(請求原因(一)及び(二)の事実)は控訴人の認めるところである。

二  被控訴人は本件各不動産取得税の賦課処分は、譲渡担保による不動産の取得が当時施行の地方税法第七三条の二第一項にいう「不動産の取得」にあたらないのに、これにあたるとしてした点において違法であると主張するところ、右地方税法はその後昭和三六年四月三〇日法律第七四号による改正以下数次の改正で後記のごとく本件における問題の部分の規定の改正を見ているが、本件譲渡担保による所有権の取得があつたのは前記のごとく昭和三五年九月一〇日であるから、右のような譲渡担保による不動産の取得が不動産取得税の課税対象となるかどうかは当時施行されていた地方税法(以下旧地方税法という)によつて定めなければならない(右昭和三六年法律第七四号附則第五三条等参照)ので、以下右主張の当否をその観点から検討する。

(一)  まず旧地方税法を見るに譲渡担保による不動産の取得が同法にいう不動産の取得として課税対象となるかどうかを直接定めた規定はない。ただ譲渡担保に関してはわずかに同法第一四条の一八において譲渡担保設定者たる納税者らの徴収金につき譲渡担保権者の物的納税責任を、同条の一九において買戻権の登記等がされている譲渡担保財産の換価の特例等を規定しているところからすれば、譲渡担保によつて単純に当該財産は納税者の所有をはなれ、その責任財産を構成しないものとする観点には立つていないことが推測されるけれども、このことから直ちに譲渡担保による不動産の取得が課税対象となるかどうかについて同法が消極の態度をとつていると結論するのは速断に過ぎる。その反面同法は第七三条の二の原則規定において「不動産の取得」に対し不動産取得税を賦課する旨を規定するとともに、第七三条の三ないし七において国及び地方公共団体等に対する不動産取得税の非課税、公益上の用途に供する不動産取得に対する非課税、農地政策等による不動産取得に対する非課税並びに形式的な所有権の移転等に対する非課税の例外規定を列挙しているので、これらの規定の体裁から見て、同法は非課税とした例外規定の場合以外は原則として不動産の取得に対しては一応課税する趣旨ではないかとも考えられなくはないけれども、そのことによつて直ちにこの結論を導くことは形式的に過ぎるとの非難を免れない。そこで本件の解決にはこれらの規定を含んだ旧地方税法の全体からして同法第七三条の二第一項にいう「不動産の取得」とは何を意味するのか、同法は私法上譲渡担保といわれる経済現象をどう見ていたかそれによる不動産の取得もまた右の不動産の取得としているのかそれなら不動産取得税を課するため譲渡担保の性質に即した特別の措置を講じていたであろうかを見極めなければならないが、そのためにはさらに私法上における譲渡担保の本質をとらえたうえ、租税法の目的と経済的意義等の観点に立つて、譲渡担保による不動産の取得に対する旧地方税法の課税態度を考察してみる必要がある。

(二)  もともと税法が課税対象として取り上げる取引行為その他の経済現象の概念は、特別の規定によつてその意味が定められている場合のほか、取引上一般に認識せられているものと同一の内容を有するものと解すべきことは当然であるところ、旧地方税法には課税対象としての不動産の取得の意味について特別の規定はおいていないから、結局取引上一般に認識せられるところに従つて不動産所有権のあらゆる機能が全面的恒久的に移転する意味での完全実質的な所有権の取得を意味するものと解するのが相当である。しかるに私法上譲渡担保といわれるものは債権担保という経済的目的を達成するために所有権移転という法律形式的手段をとる担保方式であつて、債権者(譲渡担保権者)が債務者(譲渡担保提供者)に対し債権担保という経済上の目的の範囲を越えて権利を行使してはならない義務を負担して所有権の移転を受けるという点において一の信託行為(信託法にいう狭義の信託をいうのではない)にほかならないと認識され、ただその本質を債権担保という目的要素にあるとするか、所有権移転という手段的要素にあるとするかについて判例、学説が変遷し(判例の外部的移転型、内外部共移転型、学説の精算型、流質型等)、その間に論議が重ねられて来たのであるが、近年に至りますます強調される譲渡担保の担保方式としての社会的作用と合目的性の要請から、前者の目的要素を重視し、これにこそその本質があるとする見解が瀬次有力になりつつあることは否定しえぬ事実である。とはいえいずれにせよ譲渡担保による不動産の取得は譲渡担保権者が権利の行使につき前記のような債権的拘束を受けその所有権の権能はそのための必要な範囲に限定されているという点において売買、贈与等による完全実質的な不動産の取得の場合と趣きを異にするものであることは異論のないところである。のみならず譲渡担保はその右のような性質上債権の不成立ないし弁済等による消滅はただちに担保財産の復帰の問題をおこすものであり、かような債権の不成立ないし消滅がなく、弁済期における債務の不履行によつてはじめて債権者は当該財産を精算のため換価し、もしくは代物弁済として取得するために完全実質的にその所有権を取得するのであるから、その意味においても譲渡担保による不動産の取得は当初取得の段階ではまだ右のような通常の売買、贈与等による完全な不動産の取得と同視し得ないものというべきである。

(三)  一方租税制度においては租税法律主義の原則(憲法第三〇条)からあらたに租税を課するためには法律によつて納税義務者、課税物件、その帰属、課税標準、税率等を定めなければならないこととしている。換言すれば法律によつて右のような規定が設けられない限りあらたに租税を課することができない建前となつている。また同制度では租税は納税者ないし課税物件の実質的担税力に応じた公平なものでなければならないとされており(租税負担公平の原則)従つて公平な課税を実現するためには納税義務者と課税物権との帰属関係を正確に判断することが必要とされる。そしてこの判断をするにあたつては、租税法の解釈としてもさしあたりは私法上の法形式や名義に即した帰属関係を考えれば経済的実質もこれに伴うのが一般であるからその限度においてはそれで足りるであろうが、所得や財産が法律形式上帰属する者とその経済的実質を享受する者とが一致しないような場合には、反対に経済的実質に即した帰属関係をとらえる考え方(実質課税の原則)をしなければ租税負担の真の公平をはかることができないので、この考え方が強調されるわけである(所得税法第一二条、法人税法第一一条参照)。譲渡担保は前記のように法律形式的には所有権移転の手段をとりながら、経済的実質においては債権担保であるという点でまさに後者の例にあたるものというべく、この場合租税法の解釈として当然実質課税の原則がとられるべきである。

(四)  右(二)、(三)の観点から旧地方税法が譲渡担保による不動産の取得について課税する考えであつたかどうかを調べてみるに、租税法を通じて譲渡担保の概念につき特にこれを定めた規定の認められないこと前記のとおりである以上、旧地方税法もまた譲渡担保の概念については私法にこれを譲つたものと考えるべきところ、譲渡担保に関する前説示のごとき私法上の概念に租税法上の前記実質課税の原則を適用すべきものとすれば、譲渡担保による不動産の取得に対し不動産取得税を課することは、これによる不動産の取得が前記のように完全実質的な不動産の取得と同視し得ないものである限り、結局あらたな不動産取得税の課税とみるほかはなく、従つて右課税をするためには地方税法にその点に関し前記租税法律主義の原則による納税義務者、課税標準等の前示のような定めが規定されていなければならない。ところが前叙のように旧地方税法には譲渡担保による不動産の取得に対する課税についてこのような規定はまつたくなく(前記同法第一四条の一八および一九もこの点の規定ではない)、このことからみれば旧地方税法は少くともその適用の段階では譲渡担保による不動産の取得に対しては課税を差し控えたものと考えざるを得ない。そして右のことは前記昭和三六年四月三〇日法律第七四号による改正後の地方税法が譲渡担保財産の取得に関し第七三条の二七の二(現行法では同条の二七の三)第一項に「道府県(本件においては都、以下同じ)は譲渡担保権者が譲渡担保財産の取得をした場合において、当該譲渡担保財産により担保される債権の消滅により当該譲渡担保財産の設定の日から一年以内(現行法は二年以内)に譲渡担保権者から譲渡担保財産の設定者に当該譲渡担保財産を移転したときは、譲渡担保権者による当該譲渡担保財産の取得に対する不動産取得税に係る地方団体の徴収金に係る納税義務を免除するものとする。」と、同条第二項に「道府県は、不動産の取得に対して課する不動産取得税を賦課徴収する場合において、当該不動産の取得者から当該不動産取得税について前項の規定の適用があるべき旨の申告があり、当該申告が真実であると認められるときは、当該取得の日から一年以内(現行は二年以内)の期間に限つて、当該不動産に係る不動産取得税額を徴収猶予するものとする。」とあらたな規定を設け、なお同様改正後の同法第七三条の七第七号(現行法では同条の七、第八号)は譲渡担保財産により担保される債権の消滅により当該譲渡担保財産の設定の日から一年以内(現行法は二年以内)に譲渡担保権者から譲渡担保設定者に当該譲渡担保財産を移転する場合に非課税とする旨の規定を新設し、従前規定を欠いていた譲渡担保財産に対する課税について一応の立法的措置をしていることからも裏書きされるし、またこの立法的措置も前記のように譲渡担保の本質が従来私法上においてかれこれ論議されて来た経緯と、立法においてはある規定があらたに明文化されるまでに長期間論議がかわされるのが通常であることから考えれば、従前譲渡担保について右のような規定を欠いていたのは税法上それが論議されなかつたのではなく、税法上でもようやく譲渡担保に対する課税態度が明確になつて来たので、右のような立法的措置に踏み切つたとみるのが相当であつて、前記改正地方税法が公布されるまで施行されていた旧地方税法も譲渡担保については同じような考え方であつたが、ただ当時の考えが明確でなかつたので明文化しなかつたにすぎないことを推測するに十分である。当審証人森清の証言中叙上認定に反する部分は措信し難い。なお、本件のような譲渡担保財産の取得が不動産取得税の課税対象となる旨の昭和三二年九月五日自丁府発第一五五号自治庁税務局府県税課長の回答があるが、その当時の右課長の意見を述べたものにすぎず、もとより法的な効力のあるものではないから、右認定の妨げとなるものではない。

(五)  以上によれば譲渡担保による不動産の取得については譲渡担保設定者から譲渡担保権者に対するその不動産の所有権の実質的移転が完結しない限り、旧地方税法としては課税の法的根拠がなく、従つて同法第七三条の二第一項にいう「不動産の取得」にあたるとはとうてい解し難く、むしろ旧地方税法上においても異論がないと考えられる前叙のごとき譲渡担保の性質、ことにその本質が所有権移転という手段的要素よりも債権担保という目的要素にあるとする見解が有力になりつつある状況にかんがみるならば、旧地方税法上の実定法規上の根拠として同法第七三条の七に定める形式的な所有権の移転等に対する不動産取得税の非課税の規定中第三号(信託財産の取得)を類推適用するのがこの場合もつとも妥当であると解する(なお、右のような解釈をとるならば、譲渡担保財産の完全実質的な所有権が移転しているのに、その認定が困難なため課税の機会を失するおそれが多くなるとか、当事者がひそかに通謀して譲渡担保の形式をとることにより合法的な脱税をはかることができるとかの非難が加えられるかもしれないが、当裁判所もこの場合右非難は必ずしもあたらないと解するところ、その理由は原判決のその点の理由((原判決理由四))と同じであるので、これを引用する)。

三  控訴人は地方税法の立法の経過からみても、またその改正の経緯からみても旧地方税法第七三条の二にいう不動産の取得には譲渡担保による不動産の取得が含まれると主張する。しかし右のような問題は前記のごとく旧地方税法に規定されたその点に関する個々の実定法規を含む全体を、地方税法の目的と経済的意義等に照して合理的に解釈してこそはじめてその結論が得られるべきものであつて、控訴人主張のような立法の経過のみによつて判断することは、それがたとえ事実であつても早計のそしりを免れないし、また成立に争いのない乙第一、第二号証によると旧地方税法の改正につき昭和三六年三月三一日の衆議院地方行政委員会において控訴人主張のような自治大臣らの説明がされたこと及び控訴人主張のような昭和三六年四月二一日付の衆議院地方行政委員長の報告書にその主張のような報告の記載のあることが認められはするが、これらのことが不動産取得税についての従来の行政庁の取扱いを知るうえにおいて参考となることはあつても、これらのことから実定法規の解釈問題である旧地方税法第七三条の二にいう「不動産の取得」に譲渡担保による不動産の取得も含まれるとの結論を導き出すことは困難である。右主張はいずれも採用するに足りない。

四  つぎに控訴人は立法の形式からみても譲渡担保による不動産の取得に対しては課税することができると主張するる。しかし前記法律第七四号の改正による譲渡担保財産に関する立法の体裁は、これによる改正後の地方税法におけるその点を解釈するについてはもちろん参考になるとしても、当裁判所としては前示のとおり右立法の形式は旧地方税法のもとでようやく明確になつた譲渡担保による不動産の取得の場合の課税方法を明文化したものと見るので、これによつて旧地方税法第七三条の二にいう「不動産の取得」に譲渡担保による不動産の取得も含まれると解釈する論拠とすることには賛成し難く、右主張も採用できない。

五  控訴人はまた譲渡担保による不動産の取得については租税配分の原則からみても課税されるべきであると主張する。しかしたとえ債権担保の手段として抵当権よりも譲渡担保が有利の方法であるとしても、抵当権の場合が非課税である以上これとくらべて譲渡担保の場合には課税するのが当然であるとの結論はでてこない。かえつて前説示のように譲渡担保の本質は債権担保という目的要素にあるとみるならば、譲渡担保は債権担保の一方法として実質的にはむしろ抵当権に近い性質のものと解されるから、譲渡担保権者に対する特別の課税措置を明定していない旧地方税法のもとにおいては、譲渡担保による不動産の取得は前叙のごとく非課税とみるほかはないと解される。右主張も採用できない。

六  控訴人はさらに不動産取得税は取引税であり流通税の一種であるから、不動産取得税における取得の意義もこの目的に即して形式的に解釈すべきであると主張する。しかし地方税法の定める不動産取得税が取引税ないし流通税であるかどうかはしばらく措くとして、同税に関する地方税法の個々の実定法規からみると地方税法は前記改正の前後を通じ不動産の取得という行為を形式的に(たとえば登記の一事によつて)とらえるよりも、むしろ実質的にとらえようとしていることが明らかなことは前説示のとおりであるので、右主張もまた採用の限りでない。

七  以上の次第で譲渡担保による所有権の取得がただちに旧地方税法第七三条の二第一項にいう「不動産の取得」にあたるとの見解のもとにされた本件各不動産取得税の賦課処分は違法というべきであり、その取消しを免れない。右と同趣旨の原判決は相当であり、本件控訴は理由がない。よつて民事訴訟法第三八四条第一項、第九五条、第八九条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判官 浅沼武 上野正秋 柏原允)

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